インスタ映えする消化器

 韓国で消化器を設置している家庭が少ないという状況を受けて、サムスンの子会社・第一企画が考案したこの「ファイヤーベース」。現在、ソウルにあるチェボル(韓国の財閥)が保険加入者を対象に、20万個配布しているそうです。

 


 コシウォンと呼ばれる安価な宿泊施設を含む韓国の居住スペースは、火災の危険性が高くなっています。現在の安全基準は古い建物は対象外となっているため、昨年ソウルのコシウォンで火災が発生したとき、寮のようなこの施設にはスプリンクラーすら付いていませんでした…。この火事では住民7名が死亡。また、韓国南部の小さな病院でも、スプリンクラー設備がなかったため37名が死亡するという火災事故もありました。

 「『このような事故が2度と起こらないようにする』と、また言わなければいけないのはとても恥ずべきことです」と当時、李首相はコメントしていました。

 韓国最大の財閥であるサムスングループは、サムスン火災海上保険を通して損害保険も提供しています。サムスン火災海上保険が国民を対象に世論調査したところ、韓国では家庭でも消化器の設置が義務づけられたにも関わらず、2017年の時点で58%の家庭が消化器を設置していないことがわかりました。

 
 

 このような課題に対処すべくつくられたのがこの「ファイヤーベース」であり、それはSNS映えもする新しい防災グッズなのです。

 一見、普通のかわいい花瓶です。が、割れると中から炭酸カリウムが飛び出します。酸素を抑制する炭酸カリウムは、世界中で粉末消火剤として使われている成分です。これは全米防火協会が唯一認める、粉末消火剤「パープルK」の主成分にもなっています。「パープルK」とはその名通り、消化時にはパープルの粉末で消化されます。一方、サムスンの炭酸カリウムは無色で一瞬で近くの火を鎮火します。

 その優れた消火能力を示した広告動画は2018年に公開され、瞬く間に拡散。2019年4月までに800万回以上も再生されています。
 動画公開と同時に第一企画社は、10万個の製造を開始。サムソン火災海上保険は、これの配布を行いました。「『ファイヤーベース』の着想元は、とてもシンプルなものです。それはサムスン火災海上保険の“いつも近くに優れたサービスを”というブランド哲学を保ちつつ、家庭で起きている深刻な火災問題の国民意識を高めることです」と、当時、第一企画のクティエイティブディレクターだったオ・ヒュンキュン氏は語っていました。

 現在、同社はこのプログラムの拡大を図っています。

 『Dezeen』誌の記事によると、「防火に無関心な韓国の人々に消火器を持たせるという戦略のもと、欲しいと思わせるようなユニークな消火器をつくりました」と、サムスンはプレスリリースで述べています。

 投げて消火するというアイデア自体は、サムスンが初めてではありません。例えば2016年のElide Fire Ball(初期消火救命ボール)も同じ原理です。しかしいずれにせよ、より多くの方が防災意識を持つに越したことはありません。