文在寅政権が見せた「道徳的優越感」の極致

【コラム】文在寅政権が見せた「道徳的優越感」の極致
2019/04/21 05:06

 4月6日、ソウル外信記者クラブ元会長のマイケル・ブリン氏が本紙に寄稿したコラムを読み、一方では恥ずかしく、一方では惨憺(さんたん)たる気分になった。ブリン氏は、(2014年4月に沈没して300人以上の死者・行方不明者を出した)旅客船セウォル号」の追悼施設を光化門広場に作ることは適切なのかと疑問を提起し「セウォル号の犠牲者は、国論を分裂させようとする韓国国内の政治的意図によって利用されていると思う」と記した。

 

[http://www..com/:title]

 

 

 恥ずかしかったのは、こうした指摘と問題提起を、韓国の記者ではなく外国の記者が行ったという点だ。「セウォル号事件」が韓国の地にとどまっていた5年の間、ブリン氏と同様の見解を持った韓国人記者がいなかったはずはない。にもかかわらず、私自身を含め、セウォル号の政治的利用と光化門広場への追悼施設設置の不適切さを本格的に指摘した記事を読んだ記憶はない。

 

 セウォル号を政治に利用する問題について私は、逆説的に歓待(?)しようと努めていた。セウォル号に便乗して前大統領と政権を追い払うことに成功した勢力は、「セウォル号」がありがたいと思うことはあっても、セウォル号を簡単に引っ込めることはできないだろう、と思ったからだ。


けれども、もうそんなことはやめてもいい時期になったと考え、光化門ではなくよそに移せばいいと思った。だが、私はそれを文章にできなかった。都合よく顔を背けたのだ。政権勢力や左派勢力の反対を大きくしたくなかったからではなく、セウォル号犠牲者の冒とくだという「レッテル」が嫌だったのだ。

 

 さらに重要なのは、私が惨憺たる気分になった理由だ。マイケル・ブリン氏が指摘した韓国人特有の「犠牲者フレーム」が心に引っ掛かった。ブリン氏は「今や韓国は世界で最も豊かで重要な国の一つであるにもかかわらず、自分たちこそ『邪悪な他人の犠牲者』だと仕立てようとする、道徳的優越感に陥っている」と指摘した。コン・ビョンホ博士は著書『左派的思考』において、道徳的優越感についてこのように記した。「『われわれ』と呼べる集団に属している人々が勝利するためには、『彼ら』より何か特別なものが必要だ。それは道徳的・倫理的優越性だ。(中略)386世代(1990年代に30代で、80年代に大学へ通った、60年代生まれの世代)の一部は、父親世代に『あのときあなた方は何をしましたか?』と尋ねたりした」

 

 

[http://www..com/:title]

 

 こんにち韓国社会に広がる左派的思考から見ると、右派的世代と過去の右派政権は屈辱的かつ敗北主義的で、自分たちこそ「積弊」を清算すべき「正義の戦士」だという意識が支配的だ。


揚げ句、文在寅ムン・ジェイン)大統領まで乗り出して「アカ」という言葉を口にし、「親日」を清算すべきだと公言した。

 

 

 文政権の特徴は、自分たちは道徳的で優れており、誤りはないかのように振る舞うことだ。過去の右派政権の全てを覆し、正しく人間らしい世の中をつくりたいというのだ。元・前大統領二人を含む過去の政権関係者およそ150人を監獄に入れてでも、「過去史真相調査」という名目で過去を覆し、過ぎ去った建国と民主化の歴史を再設定すると騒ぎ立てたが、韓国国民の呼応と関心を引き出すことには失敗した。文政権を構成する人々が過去の政権の人々よりもまし、という国民的認識はない。ないどころか、場合によっては過去の政権より狭い人材難に「似た者同士」「どんぐりの背比べ」な形で苦しんでいる。脱原発にせよ所得主導にせよ、4大河川(漢江、洛東江、錦江、栄山江)のせきの取り壊しにせよ、打ち出した政策はいずれも破裂音ばかり量産している。

 

[http://www..com/:title]

 


政権を取ってから2年もならないのに、文政権に対する韓国国民の疲労感と失望感は歴代のどの政権よりもひどい。北朝鮮問題を巡る批判に対しても攻勢に出た。反対勢力は韓米間の協調の枠組みを借りつつ実際は葛藤と対立の過去に戻ろうとしている-と反論した。自分たちが追及する「南北」は平和であって、その平和の条件に疑義を呈する批判は対決だとする二分法は、文政権の道徳的優越感の極致だ。

 

 結論として、今までの文政権の姿からは、彼らの主張もしくは自負に符合する道徳的優越性を見いだし得ない。彼らはただの「違うルーツ」だ。良い意味で違っていることもあり得るが、悪い意味で違っていることもあり得る。自分たちが追求するものにより謙遜で、他人の意見を尊重しつつ向かっていくのなら、良い意味で違うと言える。だが、今のように「お前らは騒げ、俺たちは俺たちのやり方でいく」だとか傍若無人に進んでいくのなら、悪い意味で違う方向へ流れていくだろうと断言できる。統一部(省に相当)長官任命の強行が、その「見本」だ。

 

 ピュリツァー賞に輝いた歴史学者バーバラ・タックマンは、著書『愚行の世界史―トロイアからベトナムまで』でこのように記した。「成功裏に終わった革命はどれも、自らが追い出した暴君の服を早晩身に着ける。悪政には(1)暴政または圧政(2)過度の野心(3)無謀または堕落(4)独善または我執-の4種類があるが、複数が結合しているケースが多い」

 

金大中(キム・デジュン)顧問